2009 |
04,07 |
«タイトルなし»
今この時壊れていくものがある。それと同時につくられていくものがある。それはけして目には見えないものがあって見えては行けないものでもある。しかし、見たいという欲望は人間だからこそ誰もが平等にもっている。今から僕らはそれを探さなければならないんだ。いや、探すんだ。
物語の発端は春の遠足の時だ。
大体なんで高校生にもなって遠足なんかしなきゃいけないんだよ。まぁしかし、担任の考えていることはまったくもって意味がわからないな。
ぶつぶつ考え込むのはこの物語の主人公であろう天村 祐樹だ。
この遠足は担任が勝手に考え出した負の産物・・・いやヤツの遺産だろうか?
まぁどちらにしろ俺的にはかなりの邪魔なレクだと思う。
だが、今はそんなことを考えている余裕などない。
カレーだ、カレーが俺を呼んでいる。灰汁を取らなければおいしいカレーを拝むことすら許されないだろう。
しかしまぁ~昼飯を学校で作るのは中学の調理実習以来だ。
でも、毎日料理をしているから腕が落ちていることはない。心配をするな、俺の班。
料理自体は家でやっているから緊張というものはこの一面としてはない。むしろ女子との接触をまともにするのはこれが初めてだからこっちの方が緊張してしまう。
「さぁ、がんばるかなぁ」とは言ったものの祐樹の動きが止まる。
ん?なにをしているんだこいつは!?指の公開処刑か!?薪を割るみたいに腕を思いっきり振りかぶっていた。
「あぶねェッて!!」とは言ったが聞く耳を持ってはくれなかった。相当の初心者さばきだ・・・・笑えねぇ。
こいつは鬼か?鬼よ、貴様が切ろうとしているのは貴様の指だ!
その鬼は長いストレートヘアーをブワッっともの○け姫出てくるアシ○カみたいに逆立たせていた。鬼の髪から甘い香りが漂う中、そんなことを考えていた。
しかし、その鬼の腕は振りかざしたあとの大根から15cmあまりのところでピタリと止まった。氷のように固まった。
ふぃ~~・・・あぶねぇな。今気がついたけど鬼はニンジンすら眼中にない。目の前のさわやかなスマイル全開のふちなし眼鏡男子、御手洗 孝に夢中らしい。
「危ないよ!古守さん。指を切っちゃうよ。」と孝は声をかけていた。
孝の声に我に返った鬼は包丁をまな板に刺して孝を避けるように洗い場のほうにあ、忘れ物とか言いながら行ってしまった。
そのとき初めて鬼の名前を知った。
―――古守か・・・
心臓が落ち着いたところでふと疑問が浮かび上がってきた。
「つうか、何で孝って名前知ってるんだよ?!?」そう聞くと孝はにんまりして
「祐樹は古守さんの事が好きなのか?」
あまりの馬鹿げた発言に三秒も頭が真っ白になっただろう・・・・・多分。
「今日初めて知った人を好きになれるかっ」そうはき捨てると、孝は安心したみたいだった。
何も言わずに去ろうとしていたら孝の上半身だけがこっちを向いて嬉しそうに
「俺はあの人のこと好きだからッ!!」
クラスのみんなが孝を一斉に見た。だけど誰のことが好きなのかはわからなかったらしいし、いつもの光景だが、何かが違った。女子の目はギラギラに光って男子は嬉しさ半分悲しさ半分だった…らしい。そう森本が言っていた。まぁ、理由は孝がクラスの人気者らしくモテているからだろう。
孝が爆弾発言するのは幼稚園の頃から知ってはいたが、恋愛に関して発言したのはこれが初めてだった。
そんなイベントを物とはしないで洗い場から古守がきょとんとした(かわいくない)顔で帰ってきた。
あの様子だと聞いていないみたいだな。
まぁいいやと納得させて作業を再開した。
***
無事に昼飯を作り終えた。でも、周りより遅かった。
なぜなら鬼こと古守は手伝ってくれなかったからだ。
まぁしかし、俺が作ったカレーは完璧だ、正確に言えばルーだけだ。そう感心しながら食っていたが古守の異変に気がついたのはすぐのことだった。
皿にスプーンをカチカチと当てていた。いらだっている?いいや、震えているのだろう。
―――それ美味しそうだね
孝の声がする気が…この班には孝はいないはず、孝は隣の……………孝ッ!?
古守の隣に孝の姿があった。
―――あほだ、完全にあほだ
俺が呟いたら、あほじゃないと位置的に孝が答えた気がした。
でも、その声は古守のものだ。
なんだこいつら?もう頭がイカレそうだ。このエリアから今すぐにでも離れたい。逃げる手段としてはトイレがイチバンだ!!
祐樹の足が動くと同時に孝のも動いた。
「わりぃ、便所に行ってくる。」
それは俺の台詞だ。
仕方なく、ついていくことにした。二人より一人を相手したほうがマシだと思ったから。
が、俺の考えは浅はかだった。
「もう分るだろ?」
「イヤだ。」本能的にそう答えがでてきた。
「いいじゃん、祐樹は別に古守さんに好意はもってないんだろ?」
「それでもイヤだ。」だってあからさまに古守も孝のことが好きなのはわかっているし、そのうち付き合うのは時間の問題だと思ったから。手伝う間もないし。
しかし、これは面白くなるから古守の思いは孝には伝えないでおこう。
孝は機嫌を損ねて
「そっか、仕方ないな。俺だけで頑張る。」
―――おう、頑張ってくれ
そう心の中で応答したが、見た目ではGOOD JOBのサインで示しただけである。
すると、孝はなぜか駆け足ででていった。
***
もう、食べ終わっただろう。トイレから出ていったがはげたかの様に待ち構えた鬼?いや、鬼の形相をした古守が猛ダッシュしてきた。
歩いて八歩のところを。
「あのさ、あのさ、ちょっといいかな?」
もちろん、シカトしようとした…がジャージをがっちり掴んで離れなかった。
う、動けない。焦ってほどこうとするが俺は文化系でこっちはばりばりの運動系。
勝てるはずがない。
「ななななんで、逃げるのよッ!!」
古守も相当あせっているのが分ったから、潔くあきらめた。
「意味がわからないから、この状況がね」落ち着いて言えた。
「あんたさぁ御手洗君と仲がいいよね?」
…そりゃぁ~幼馴染だからな。
「なぜに?」
「あ、あ、あたしと御手洗君ってどう思う?」
「どうもこうもこの状況がわからない。はたから見たら俺等変人だよ?」
―――両思いだコノヤロー!!早く付き合っちまえよ
気づけ俺、心の声がやつに聞こえるはずがない。心眼を持っているわけでもないし。
古守はため息をついていた。
「そっか…したら、御手洗君のこと知りたいからアドレス交換しようよ。」
いやだ、自分で聞けとは言わずにうなずきポッケットあると思われる携帯を探したがなかった。
「わりぃ携帯わすれた。てか、さすがに時間がやばいから班に戻るよ。」
発言した後に孝と同じように駆け足でもどった。
***
午後からは自由行動だったが祐樹は動かなった。
睡魔に教われているには危機感を感じる。たぶん睡魔より凶悪で命に関わるのだろうが声が出ない。
意識がだんだんうすれていってついに倒れた。
誰も気づいてはくれないだろうと思ってたが心の隅には期待があった。
が、期待は塵と化した。
***
烏の鳴き声が聞こえる。
そうか、本当に見捨てられたのか…
と思ってたら急に意識が舞い戻ってきた。
ここは病院で窓際には全身が紅の夕日で神々しく光る女子の姿があった。
―――あれは誰なんだ?
雪のような真っ白い布団が鉛のようだ。横になっていた重い体を好奇心と根性だけで置きあがらせた。
すると、こっちに気がついたみたいで
「どう?元気になった?」
そのうっとりとした甘い声は頭に真っ直ぐ届いていた。
しかし、いい返事は見つからなくて
「おぅ、だいぶな」としか今の祐樹には発することしかできなかった。
その甘い声の持ち主はやさしい顔をして病室から出ていった。
このやり取りを傍観していた愚か物が一人。
…森本 直人だ。
すぐに駆け寄ってきて何かを言っている。額に手を当てそこで自分の体温が熱いことに気がつき、やっと森本が言ってる内容が理解することが出来た。
―――話はこうだ
祐樹が倒れて病院に運ばれた。その時に森本は保健委員の特権でついてきたが、甘い声の持ち主こと北嶋さんは謎らしい。
しかし、なぜ北島さんは俺を病院まで?まぁ名前が知れたからよしとするか。
祐樹が冷静になったとたんめまいが起きた。
森本の声で意識は保てているが、返事が出来ない。その冷静の心で早く家に帰りたいと思いながらもう一眠り真っ白い布団の中に体をうずめた。
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